25 - 26 October 2024 Modern and Contemporary Art

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Detail

1966
油彩、キャンヴァス
右下にサイン、制作年
72.7 × 90.9 cm (28⅝ × 35¾ in.) (F30)
額装

Estimate¥2,000,000 - 3,000,000

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コンディション:良好です。キャンヴァス裏面に経年による油染み、及び薄い斑状のシミがあります。


 「観念絵画」と題した個展を1964年2月に開催した中村宏は、1964年から1966年の間に立石紘一と「観光芸術研究所」を設立し、共同制作を行った。その当時二人は、「観光芸術宣言」を発して、そこで「観光」を再定義している。単に旅行者が出掛けた先で見物することだけを指すのではなく、見物したものを通して、内的な変容がもたらされることを含むものなのである。さらに、この変容を経た旅行者の内的な世界を絵画という物理的な表面に再現することで、「観光芸術」が成立するとされている。
 「観光芸術研究所」の活動していた時期には、新幹線が開通するなど、高度経済成長に伴う全国での公共交通機関が急速に整備されていった時代でもあった。それに伴い、観光旅行や修学旅行がより一般化していったのと重なる。中村の代表作の一つに《修学旅行》(1966年)がある。この作品には、海沿いを走る汽車に連なる列車の車内で、騒音と戯れるセーラー服を着た女生徒たちが描かれている。このモチーフに登場する一つ目やのっぺらぼうの少女は、1960年代の作品において中村の主要なキャラクターとして確立され、何度も繰り返し描かれたものである。中村の幼少期における戦争に対するトラウマが当時の一般的な修学旅行の女生徒に仮託して描かれているそうだ。このようにシュルレアルで、またフェティッシュで、ホラーの要素を多分に含む表象は、鑑賞者に強いインパクトを与える。そしてこの絵画において、本来メカニカルな構造である列車を生物とみなし、腸を思わせるその内臓のような空間として、車内を描出している。逆に、セーラー服の金属を思わせる硬質な生地の光沢には、機関車の機械的な要素を持たせている。こうした本来持つべき質感があべこべな状態はまさに現実の変容であり、彼らによって再定義された「観光」の思想が通底して現れていると言えよう。
 
* 東京都現代美術館編『中村宏|図画事件 1953-2007』東京新聞、2007年、63-64頁参照。

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