8 March 2025 Bloom Now

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LOT 044

アンドレアス・グルスキー

Em Arena II, Amsterdam

Detail

2000
タイプCプリント、プレキシガラス、オリジナルフレーム
裏にサイン、タイトル、制作年、エディションナンバー
I. 229.7 × 161.8 cm (90⅜ × 63¾ in.) S. 269.2 × 200.4 cm (106 × 78⅞ in.) Frame size: 276.6 × 206.3 × 6.1 cm (108⅞ × 81¼ × 2⅜ in.)
ED. 6
額装

Estimate¥20,000,000 - 25,000,000

入札申し込み
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来歴: Galleria Lia Rumma、ナポリ/クリスティーズ、ロンドン、Post-War and Contemporary Art Evening Sale、2006年2月8日、Lot. 50/Ben Brown Fine Arts、ロンドン

コンディション:作品の状態は良好です。問題ありません。オリジナルフレームの一部にわずかなスレ跡があります。


 ドイツ出身のアンドレアス・グルスキーは、広告写真家を父に持ち、幼少期から写真に親しんで育った。1980 年にデュッセルドルフ美術アカデミー写真科に入学し、「現代美術としての写真」を提示した先駆者でもあるベルント&ヒラ・ベッヒャーに師事する。彼らは学生たちに対して、社会的領域からテーマを選び、正面から静的に捉える作品制作を指導した。またベッヒャー夫妻が指導の中で取り上げた、アメリカの新世代写真家によるカラー写真の潮流「ニュー・カラー」を紹介する『ザ・ニュー・カラー・フォトグラフィー』(1981 年刊行)は、後にグルスキー自身が「聖書」であったと語っている。こうしてドイツ写真の伝統や同時代のアメリカ写真から影響を受けながら、1980 年代のグルスキーはドイツ国内や周辺のヨーロッパ諸国内から被写体を得て撮影した。
 1990 年代に入ると活動の場を国際的に広げ、株式市場、大企業の工場、競技場など「グローバル化」を象徴する光景を、俯瞰した視点で捉えるようになる。1992 年からは、今日まで続けられているデジタル技術を用いたイメージの加工も開始された。グルスキーは、新聞や雑誌の記事からモチーフを得て大判カメラで撮影し、現像したネガをスキャナーで読み取ってモニター上で修正をかけ、さらに複数のイメージを繋ぎ合わせて1 枚のイメージを完成させるという。この制作方法は、デジタル技術に基づいた写真のあり方を示す一方で、一般的に画家が他の作品を参照したり、自身のデッサンを組み合わせたりして構想を練り、アトリエやスタジオで最終的な作品を完成させる伝統的な画法にも類似すると考えられている。
 今回の出品作品《Em Arena II, Amsterdam》(2000 年)は、ピッチを高所から撮影した作品である。白線と芝生の縞模様の形態的要素が画面にコンポジションを与え、デジタル技術で入念に調整されたであろう芝生の緑色からは、グルスキーの作品において度々言及されるバーネット・ニューマンやケネス・ノーランドらの抽象絵画の色彩を想起させる。作品を前に佇むと、まず縦 276.6cm×横 206.3cmという作品サイズに驚き、細部を確認するため画面に近づくと、視点は選手から選手へと素早く移動する。一方で、画面から距離をとり全体像を捉えようとすると、ピッチの空間は平坦化され、静的で抽象的な画面を理解するのである。絵画では馴染みのあるこの「マクロ的視点」と「ミクロ的視点」の鑑賞体験を写真に取り入れたことは、グルスキーの作品において重要なポイントである。

* 山田由佳子「アンドレアス・グルスキー、その革新の軌跡」『アンドレアス・グルスキー』(展覧会カタログ)国立新美術館/国立国際美術館、2013 年、151-153 頁参照。

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