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NEWS - 2024.11.15

ART COLLECTOR INTERVIEW 開き、交感する:コレクションすること、オークションという装置について  UESHIMA MUSEUM COLLECTION 植島幹九郎氏インタビュー

事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島幹九郎氏が2022年2月に設立したUESHIMA MUSEUM COLLECTIONは、拡張を続け、今日その点数は700点以上にのぼります。形成の初期より高度に社会性を持った、その同時代的なコレクション行為は、「開かれている」という正にそのことによって、植島氏のうちに親密かつ特別な体験と深まりをもたらしているようです。SBIアートオークションでも取引をされている植島氏に、その類を見ない蒐集姿勢と、蒐集活動においてオークションが担う役割について伺いました。

⊳アート購入のきっかけを教えてください。

2011年の東日本大震災時に炊き出しに被災地に行った際に知り合った、特定非営利法人ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞さんと交流を続ける中で、彼らが手がける芸術による地域振興活動を知りました。その中に、世界的アーティストであるゲルハルト・リヒターの14枚のガラス作品がある無人島というのがあるというので、「なぜそんなところに著名作家の作品が?」と聞いたところ、「紛争地域の支援に関連してリヒターに直接会う事になった縁で、本人から寄贈していただいた」とのこと。アーティストが社会活動に共感し行動する様を目の当たりにして、アートと社会の関わりに関心を持ちました。その作品の公開が開始された年と同じ2016年に、NYのマリアン・グッドマン・ギャラリーでリヒターの個展があり、彼の作品を間近で見て衝撃を受けました。それ以来、アートを購入しては自分の家などの展示できる場所に飾っていましたが、その当時自由に使える壁面も限られていたので、壁が埋まってしまったことで一時蒐集をやめていた時期があります。

⊳インターバルを経て、本格的に蒐集をするようになったのはいつからですか。

本格的に購入を始めたのは、2022年からです。事業拡大したことで展示に使える壁面にも余裕ができたため、いよいよアートを買っていきたいと思ったんですね。その年は、とにかく沢山のギャラリーを見て回り、アートフェアやオークションにも積極的に参加しました。活動範囲も日本に限らず、例えば韓国のFrieze SeoulやArt Baselなど海外にも広がりました。

⊳そのうえで、アート購入を「コレクション」として体系的に行っていくことを意識されるようになったのはいつなのでしょうか。

コレクションとして体系的に意識するようになったのは、2022年の途中です。多くのギャラリストやアーティストから、「購入されても倉庫に眠ってしまい、飾られないまま、鑑賞されないまま手放されてしまう作品も多い」といった話を聞き、展示することを前提に購入している自分にとっては大変な驚きでした。そこから、作品を公に公開するためにコレクションとして意識するようになりました。まずは、やはり壁面の制限がボトルネックになってしまうので、HPやSNSでデジタルに公開し、多言語でキャプションをつけることから始めました。また同時に展示の場所をオフィスにも展開するようになりました。

⊳ コレクションを積極的に発信されていますが、どのような影響・反応がありますか。

UESHIMA MUSEUM COLLECTIONとして購入した作品を公開するようになり、出会いのきっかけが増えたと思います。例えば、私は新たに蒐集した作品はInstagramで公開するようにしているのですが、SBIアートオークションでボスコ・ソディを落札した時、Instagramの投稿を見た作家から「購入してくれてありがとう」と連絡が来て、来日時に食事をしたということがありました。プライマリー(ギャラリーなど、一次流通市場のこと)で購入した場合は、作家に購入者のことは伝わりますが、セカンダリー(オークションなど、二次流通市場のこと)の場合、誰が買ったかをアーティストは知ることがなかなかできません。SNSで公開することで、アーティストに作品の所在を伝えることができ、それがアーティストとつながるきっかけとなっています。私は公開をコレクションのポリシーにしているので、投稿などを通じてアーティストにも知ってもらえるというのは大きいですね。

⊳貸し出しの依頼などもありそうですね。

そうですね。例えば、UBSの東京オフィスで行われたアーティストトークで作品を貸し出しました。あとは9月から福岡市美術館でUESHIMA MUSEUM COLLECTIONのコレクターズ展をやっていただくのですが、そうした外部での展示の機会も増えています。UESHIMA MUSEUMでの展示状況とも調整しつつ、積極的にアートを通じて社会に関わっていこうと思っています。

⊳ 今年の6月、渋谷にUESHIMA MUSEUMを開館されました。そのことで変わったことはありますか。

コレクションをたくさんの方に見ていただける機会が増え、その上で反応がわかるようになり、そこからの気づきや学び、経験が増えました。それまではウェブ上での公開が主だったので、誰が見ているのかや、見ていただいた方の反応を見ることができませんでした。今は、自分が館内でコレクションの案内をすることもあり、もっとインタラクティブな形で反応を見る事が出来るようになったと思います。また、美術館での展示を通じたアーティストとのやりとりも挙げられますね。美術館には、一人の作家に特化した展示室が複数あるのですが、例えばシアスター・ゲイツの展示室に関しては、オープニングのタイミングが作家自身の森美術館での個展の準備期間と重なったこともあり、内装工事中にお見えになって、展示空間の造り込みに携わって下さいました。展示室で流れている音楽についても、作家自身がオリジナルの音源を送ってくれたものになっています。ただ作品を購入するだけでなく、アーティストやキュレーターの方ともやり取りをしながら、どう展示するか、どう皆さんに見ていただくかを考えることで、作家や作品への理解や愛着が深まり、非常に楽しい経験ができています。

⊳開くことによって新たに見える・得られることがあるのですね。現在開催中の展示の中に、弊社のオークションでご購入いただいたものも含まれています(村上隆×ヴァージル・アブロー、2022年3月オークションで落札)。確か、弊社オークションで初めてご落札いただいたのは、2016年4月のセールだったかと思いますが、他社も含めて、初めてオークションに参加されたのはいつですか?

それこそ、その2016年のSBIアートオークションが初めてで、それ以前に国内外のその他のオークションには参加していません。確か、会場に行ってその場でパドルをあげたと思います。アート業界に特に接点がなく、知り合いもいない中で、調べたら東京でオークションをやっているということで参加しました。中村一美さんやジャン=リュック・モーマンなどを購入しましたね。

⊳オークションは弊社が初めてだったとは、光栄です。それまではギャラリーが主だったかと思いますが、オークションとギャラリーでの体験の違いについて教えてください。

両者の体験にはかなり違いがありますね。まず、日本はともかく海外のオークションハウスの場合は下見会会場に毎度足を運ぶことは難しく、作品を実際に見ずに購入することも往々にしてあります。オークションで落札した作品の中で、下見会で見てから落札したのは全体の10%もいかないくらいではないでしょうか。ギャラリーも海外の場合はリアルで見られないことが多いのに変わりはないのですが、オークションは特にその傾向が強いです。その意味では、日本に作品があって、見ることができる環境でオークションに参加できるのはSBIのアドバンテージですよね。また、プライマリーでは買いたくても人気が殺到してしまうとオファー待ちで買えない時がありますが、オークションは気持ちがあれば買える。競りに挑む時は、ワクワク、ドキドキがあります。オークションは週末に開催されることが多いので、私は家族と過ごしながら、公園とか遊園地とかでもスマホで入札しているのですが、家族と一緒に「買えた」とか「あーダメだった」とか言いながら参加しています。このダメだったというのも、結局自分がもう1ビッド行かなかったということ。だから、どうしても欲しいという気持ちが強くないと落札は難しいと思います。その気持ちの源泉としては、やはりこの瞬間のここにしか出てこない作品であるというところが大きいでしょうか。ギャラリーで購入できる作家であっても、過去の作品はプライマリーには出てこない。オークションは過去作が欲しいときなどにも有用ですね。競りが自分の入札で止まると「早く(ハンマーを)打ってよ-」と思うのですが、ぎりぎりのところで他の入札が入ってしまうことも。そうしたオークションのライブ感を楽しんでいます。

⊳ 落札するには気持ちの強さが大事なのですね。植島さんは、普段どのようにオークションに臨まれているのですか。

セールまで、カタログは複数回チェックします。まずは全体をパーっと見て、気になったものにマークをつけます。マークをつけた作品は、メディウムやサイズなどの作品情報を確認し、過去の市場価格やエスティメートなどを調べます。また、興味を持った作品の作家に関しては、知っていても知らなくても、必ずCV(経歴や展示歴などをまとめた資料)を確認するようにしています。1回目はやはり自分の先入観とか既知のものとかに反応してマークしてしまっていることがあり、見落としているものがあるかもしれないので、確認のために2-3回見ますね。作家名、画像、作品の色味、金額など、目についてくる点は色々あるので、異なる視点で隈なく見るようにしています。

⊳ オークションの場合は事前にかなり下調べをされて臨まれているとのことですが、ギャラリーでの購入に関してもそうなのか、偶然的な出会いで購入されるのか、どちらでしょうか。

両方ありますね。ギャラリーが集合しているコンプレックスに行く場合、目的のギャラリーの横の別のギャラリーにふらっと立ち寄った際に、新しいアーティストや作品と出会うこともあれば、個展の情報を見たうえでそれを目がけてギャラリーに伺う場合もあります。

⊳ なるほど。ちなみに、今注目されているアーティストはいらっしゃいますか。

例えば今津景さんに注目しています。1人の作家の作品で、10点以上所有している作家は少ないのですが、彼女はその一人で、今津さんの作品は多く所有しています。あと、かなりベテランの作家の中では、松本陽子さんも注目しています。

⊳今津さんはオークションマーケットでも人気が高まっている作家さんです。さて、オークションの話に戻りますが、弊社オークションをご利用いただく際、事前にスタッフに購入について相談されたりするのでしょうか。どういった話をされていますか。

下見会に行った際に、どの作家の人気があるかなどを聞いたりしますね。ただ、どの作家を競ろうと思っているといったことは、あえてあまり言わないようにしています。競りにおいては、より高い価格で落札されるようにオークションハウスは活動していて、それがマーケットの性質としてあるのだと理解しているので、欲しい作品を前にしても、(狙っていることが周りに知られることで)作品が注目を集め、ライバルが増えることを避けたいので、あえてポーカーフェイスでいます。これは個人的な考えなので、実際にどのくらい影響があるかはわからないのですけど。

⊳多くを語らないご様子には、そういう理由があったのですね。国内外、様々なオークションハウスがありますが、SBIアートオークションを利用される理由は何ですか。その特徴はどこにあると思いますか。

アジア・日本の作家でSBIでしか出品されていないものがあります。また日本に住んでいますので、下見会を日本で見られるし、送料も安いのは魅力です。送料を理由に購入を見送ることはないですが、とはいえ海外輸送は費用がかかりますので、その点リーズナブルだと感じます。私は主に、今津景さんや加藤泉さんなど、プライマリーで作品がなくて買えない作家や若い作家の作品の購入にSBIを利用することが多いかなという印象です。加藤さんなんて本当に買えないんですよ。

⊳ 例えば昨年ご購入いただいたアブディアなど、海外の作家で、日本のギャラリーでは取り扱いが無い作家もいらっしゃるかと思います。弊社オークションでご落札をいただいたのは、日本で作品を実際に見る機会があった中で買われたのか、それとも以前からチェックしていて、リーズナブルだから買った形でしょうか。

元々アーティストのことは知っていて、他のオークションでもずっと見ていました。比較的に安かったという点もありますが、結構ユニークな作品だったため、購入しました。先程、SBIの特徴としてアジア・日本の作家のラインナップの話をしましたが、一方で、このような海外作家の作品を見る機会があると良いなとも思います。

⊳日本で行われるセールで、欧米の作家の作品がもっと買えるようになったらいいとか、あるいは逆に、戦後美術など国内作家が増えて欲しいなど、コレクターとしてはどのように思われますか。

両方あると良いかもしれません。例えば、アメリカの方が全く知らない日本のアーティストだけだったらセールに参加しなかったけれど、知っている欧米の作家の作品があったことで参加し、そこから日本のアーティストを知るというようなケースもあるかと思います。最終的には、「PhillipsやChristie'sでやっているような現代アートのラインナップを、日本で見られるのはSBIだけ」というようになれたらいいですよね。海外のオークションハウスは日本でオークションを開催しないですし、下見会も日本ではほぼ無い。だからこそ逆にチャンスはあると思います。

⊳ありがとうございます。最後になりますが、弊社に期待すること、あるいはこうなってほしいなどのご要望があれば、お聞かせいただけますと幸いです。


今も海外から参加されている方は多いと思いますが、よりSBIアートオークションに参加される方が国際的に増えていってくださると良いなと思います。グローバルに認知されていってくれれば嬉しいですね。日本のアートやアートマーケットが、ドメスティックに留まるのではなく、グローバルに繋がるなかで、日本のアーティストが海外の方に知られるようになってほしいと思いますし、日本のコレクターが海外のアーティストの作品に触れる機会も増えて欲しいと考えています。SBIが、日本に作品を持ってきたうえで、日本でオークションを開催しているグローバルな企業になってくれたら嬉しいなと思います。


UESHIMA MUSEUMとは
UESHIMA MUSEUM

2024年6月に渋谷教育学園の旧ブリティッシュスクール(東京)の建物を改装しオープンしたUESHIMA MUSEUMは、事業家であり、投資家の植島幹九郎氏が2022年2月に本格的にスタートした美術コレクションであるUESHIMA COLLECTIONをもとに設立されました。ビジョンとして『「同時代性」について、美術を通じて考える場になる。』を掲げている同館は、1990年代以降に制作された作品が展示されており、現在はオープニング展を開催しています。UESHIMA COLLECTIONは、2022年に始まったばかりである比較的新しいコレクションでありながら、このわずか数年の間にすでに700点(2024年6月時点)にのぼるコレクションを収蔵し、今年の美術館の設立にまで至ったこのスピードの速さは、まさに目まぐるしく世情が移り変わる現代の流れを反映しているかのようです。
館内には、アーティストの作品をもとにデザインされた展示室が複数存在します。オラファー・エリアソンの《Eye see you》(2006)は、照らす対象の色を全て同色に染める点が特徴的であり、この作品が設置された展示室には作品を挟むように両側に鏡が設置されており、無限にこの光の世界が続くような錯覚をもたらします。コンポーザーであり、アーティストの池田亮司の《data.scan [n°1b-9b]》(2011/2022)は、カーテンで遮断された真暗の展示室に設置され、9枚のディスプレイにそれぞれ異なるデータが映し出されています。同館には、このような国際的な人気や知名度を誇る作家だけでなく、日本国内やアジア圏での活動を主とした作家や美術業界でのキャリアを開始したばかりの作家も含まれており、全てのアーティストを対象としてコレクションを現在も拡大し続けています。
最近では、オープニング展の展示作品に新たなコレクションが加わりました。東京にお越しの際には、是非お立ち寄りいただけますと幸いです。

UESHIMA MUSEUM
住所:東京都渋谷区渋谷1-21-18 渋谷教育学園 植島タワー
開館時間:11:00-17:00
休館日:月曜、祝日
Webサイト:https://ueshima-museum.com/
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