PRESS - 2025.01.23
新年の始まりをアートで彩る、東京で訪れるべきアートスポット7選 -2025年1月-
今年も、国内外のアーティストによる作品を、さまざまな形で鑑賞・体験できる美術展やイベントが目白押しです。2025年の始まりをアートで彩るのはいかがでしょうか。
今回は、「伝統技術とアートの融合 -時代を超えて輝く表現の再解釈-」と「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」の2つのテーマに着目してセレクトした美術展やイベントを紹介いたします。古くから人々の暮らしや文化に根付いてきた伝統的な技術が現代のアートにどのような息吹を吹き込んでいるのか、また科学技術の進化による芸術表現への影響を感じ取ることができるでしょう。
国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮のとき」は、世界で愛される印象派を代表する画家クロード・モネが、独特のスタイルで織りなした光と自然の世界を体験できます。渋谷区立松濤美術館では、「須田悦弘」展が開催されており、普段の生活のなかで触れ合うような自然物をモチーフに細部まで彫り込まれた彫刻作品が見る者を驚かせます。都内では希少な自然環境にあり建物自体も国の重要文化財に指定されている東京都庭園美術館では、「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」展が開催。長い間人々の生活の一部となってきた鉄やガラスなどを使用して制作を行うアーティストたちに着目しています。
デジタルメディアから取得したデータをアプリで加工・構成した下図をもとに油彩で描くスタイルが特徴的な今津景。東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」展とUESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」を通じて、その表現に浸ることができるほか、東京都現代美術館では、世界的に有名な音楽家・アーティストであり、マルチメディアを駆使したライブインスタレーションなども制作した坂本龍一の大規模個展「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が開催。現代アートの優品が揃う弊社オークションと併せて、是非巡っていただきたい展示が勢ぞろいです。
目次
1. 「伝統技術とアートの融合-時代を超えて輝く表現の再解釈-」
1) 国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」
2) 渋谷区立松濤美術館「須田悦弘」展
3) 東京都庭園美術館「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」
2. 「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」
1) 東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」
2) UESHIMA MUSEUM ANNEX 「今津景展」
3) 東京都現代美術館「坂本龍一|音を視る 時を聴く」
4) SBIアートオークション「第69回SBIアートオークション|Modern and Contemporary Art」
1. 「伝統技術とアートの融合-時代を超えて輝く表現の再解釈-」
古くから人々の暮らしや文化に根付いてきた伝統的な技術が、現代のアートにどのように息吹を吹き込んでいるかが伝わるような展覧会を紹介いたします。油絵や木彫り、建築、さらには鉄やガラスなどの素材を用いたクラシカルな技術は、単なる技法を超え、芸術家たちの個性や時代の感性と結びつくことで、新たな価値を生み出しています。
1) 国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」(2024年10月5日(土)-2025年2月11日(火・祝))
2024年10月から国立西洋美術館では、「モネ 睡蓮のとき」が開催されています。日本でも人気が高い印象派を代表するクロード・モネの大規模個展である本展覧会は、世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館所蔵の日本初公開作品を含む約50点と日本国内で所蔵されている名画を集結させた充実のラインナップです。ロンドンの街並みやセーヌ河の作品群の後、「睡蓮」を主題として水と花々を描き始め、多くの困難を経て、睡蓮の池を描いた巨大パネルで部屋を覆うという画家の計画であった「大装飾画(Grande Décoration)」の制作時代へと移り変わります。晩年には白内障の症状により色覚の変化が生じながらも、その制作衝動の強さや経験に裏打ちされた色彩感覚、実験精神を感じる作品群が展示されています。数々の困難を前に活動を止めることがなかったモネが油彩画を通して表現した世界は、彼の生きた時代にすでに確立された絵画技法への力強い挑戦でもありながらも、「色彩の交響曲」と言えるそのたゆたう睡蓮の池の水面や自然は、今日を生きる人々にとっても想いを馳せる拠り所となり続けています。
2) 渋谷区立松濤美術館「須田悦弘」展(2024年11月30日(土)-2025年2月2日(日))
左:須田悦弘 《スズメウリ》 2024年 木に彩色 作家蔵 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
中央:須田悦弘《東京インスタレイシヨン》(部分)1994年 ミクストメディア 山梨県立美術館寄託 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
右:須田悦弘《ガーベラ》1997年 木に彩色 東京都現代美術館蔵 賛美小舎 上田國昭氏・上田克子氏寄贈 撮影:田中俊司 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
2024年11月30日から渋谷区立松濤美術館で開催されている「須田悦弘」展は、日常の草花や雑草を驚くほど精巧に彫り上げた木彫作品を通じて、自然とアートが交錯する特別な体験を提供します。須田の作品は本物そっくりの植物を実物大で再現し、それを思いがけない場所にそっとすることで、空間と一体化した独自の世界を作り出します。今回の展覧会では、須田の初期作品やドローイング、さらには古美術品の欠損部分を補う「補作」作品までを展示。この機会にしか見られない卒業制作の再現展示も注目です。松濤美術館は、「哲学の建築家」と言われる白井晟一の設計によるユニークな建築で、曲線を多用した展示空間に配置された須田の作品は、訪れる人々に静謐で詩的な体験をもたらします。
静かに置かれた作品を探し出したとき、周囲の景色が変わって見える体験を味わうことができます。
3) 東京都庭園美術館「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」(2024年11月30日(土)-2025年2月16日(日)
左上部:東京都庭園美術館 本館 正面玄関
左下部:東京都庭園美術館 本館 大客室と香水塔
中央:青木野枝《微塵》2020年 gallery21yo-j (東京)展示風景 ©Noe Aoki, courtesy of ANOMALY(撮影:山本糾)
右:三嶋りつ惠《VENERE》2023年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION(撮影:Francesco Barasciutti)
東京都庭園美術館では、「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が開催中です。降り注ぐ太陽の光、穏やかな月明かり。私たちの日常はさまざまな光との出会いに彩られています。この展覧会では、現代美術の第一線で活躍する青木野枝と三嶋りつ惠の作品が、鉄とガラスという古くから人間の世界に存在し続けている素材を使用し、アール・デコ様式の装飾空間を舞台に新たな輝きを放ちます。二人はこの場所を訪れ、空間と対話を重ね、この展覧会のためだけの展示プランを構成しました。青木は、鉄が溶断するときに見せる内部の「透明な光」からインスピレーションを受け、この重い素材が持つ光に向き合い続けてきました。一方、三嶋は透明なガラスを通して「光の輪郭」を表現しようと試みてきました。昼は自然光が差し込み、夕暮れには暖かな室内照明が灯り、光の移ろいが作り出す空間のなかで、それぞれの素材とそれぞれの「光」への意識や向き合い方が表現された作品が展示され、瞬間の美を魅せます。
歴史と現代、鉄とガラス、作家と空間が交差するこの展覧会は、光の芸術を通じて私たちの感覚を新たな世界へと誘います。
2. 「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」
科学技術の進化は、芸術表現にも新たな地平をもたらしています。デジタルツール、AI、VR、3Dプリント、音響技術といった現代の技術は、これまで不可能だったアートの実現や、新しい視点・体験の創出を可能にしています。本特集では、現代技術がアートに与える影響とその未来像に迫り、「今だからこそ生まれるアートの表現性」を深く掘り下げます。伝統と現代の狭間で生まれる新たな創造を通じて、技術と芸術の交差点を探ります。
1) 東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」(2025年1月11日(土)-3月23日(日))
左上:「unearth」ROH (インドネシア) 展示風景 2023 courtesy of The Artist and ROH
左下:《When Facing the Mud(Response of Shrimp Farmers in Sidoarjo)》油彩、アクリル、泥、UVプリント、キャンバス 194×388 cm 2022 個人蔵 courtesy of The Artist and ROH
中央:《Decoupling》2016 油彩、キャンバス 116×80 cm 個人蔵 courtesy of The Artist and ANOMALY
右:《Last Universal Common Ancestor》2022 油彩、キャンバス 201×135.5 cm Obayashi Collection courtesy of The Artist and ANOMALY
2025年1月11日から東京オペラシティアートギャラリーで開催されている今津景「タナ・アイル」展。今津は、2017年よりインドネシアのバンドンに制作・生活の拠点を移し、インドネシアの都市開発や環境汚染などの事象を自分自身で調べ、時には自らそれらの地に足を運び、その経験をもとに制作を行うスタイルへと移行しています。今津は、デジタルアーカイブやインターネット上の画像を取り入れ、それらをコンピューターアプリケーションで独自に加工した上で、油彩でキャンバスに描く、伝統的な技法と現代的な技術を組み合わせた独自のスタイルで作品を制作しています。また、現在起きている出来事だけでなく、過去の神話や歴史、生物の進化などの画像データなどを組み合わせることで、複数の時間軸やテーマを重ね合わせた作品が生まれ、現代社会が抱える問題を普遍的な視点から問いかけています。本展では平面作品だけでなく、3Dプリンターを活用した巨大彫刻やインスタレーション、そしてインドネシアの歴史や自然環境をテーマにした新作も公開され、今津の多彩な創作世界を体感できます。
展覧会タイトル「タナ・アイル」はインドネシア語で「土」と「水」を意味し、「故郷」を象徴する言葉です。今津にとって、現在暮らしているインドネシアと自身のルーツがある日本の二つの故郷、そしてそこでの経験に基づいて制作された作品群は、鑑賞者にも自らの生きる場所について考えさせるきっかけを提供します。
現代社会の課題と個人の視点が交差する今津景の作品群。ぜひ会場でその壮大なビジョンを体験し、私たちの生きる世界を再発見してください。
2) UESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」(2025年1月15日(水)-2025年3月末日)
左:「今津景展」エキシビションポスター
左:UESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」展示風景
昨年6月に渋谷教育学園内にオープンしたUESHIMA MUSEUM(本館)に続き、2025年1月にUESHIMA MUSEUM ANNEX がオープンしました。このAnnex館では2025年1月15日から「今津景展」が開催されています。国内でも有数の大規模なコレクションを有するUESHIMA MUSEUM COLLECTIONは、同時代性をテーマに集められた多様な作品を有しており、先に触れた東京都庭園美術館へも三嶋りつ惠の《VENERE》(2023年)を貸出しています。本展では同コレクションが所蔵する12点の今津作品が一堂に会し、特に2019年制作の大作《生き残る》が注目の的となっています。
今津景は、インターネット上で収集した多様なイメージをデジタル編集し、それを基に油彩で描く独自の手法で知られています。デジタル編集の過程で生じるバグやグリッチといった偶発的な要素も作品に取り入れ、伝統的な絵画技法では得られない視覚体験を提供します。このようにして生まれる作品は、絵画とデジタルの境界を超え、鑑賞者に新たな視点を提示します。
本展は、2000年代後半から現在までの約20年間にわたる今津のキャリアを概観する構成となっています。日本からインドネシア・バンドゥンへの拠点移動や、出産・育児といった個人的な経験が、作品のテーマやモチーフに大きな影響を与えているであろうことが、各時代の作品の変遷を通じて感じ取ることができます。
3) 東京都現代美術館「坂本龍一|音を視る 時を聴く」(2024年12月21日(土)-2025年3月30日(日))
左:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展 ポスタービジュアル
中央上:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024年 ©2024 KAB Inc. 撮影:浅野豪
中央下:田中泯 場踊りat 坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE−WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 Photo: 平間至
右:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024 ©2024 KAB Inc. 撮影:丸尾隆一
2024年12月21日(土)より東京都現代美術館で開催されている、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展は、日本が誇る音楽家であり、アーティストであった坂本龍一の芸術的探求を包括的に体感できる展覧会です。坂本の没後、日本では初めてとなる大規模な個展であり、音楽と美術を融合させた新たな体験が広がります。
坂本は、その多様な表現活動で知られており、マルチメディアを駆使したライブパフォーマンスや2000年以降に始まった「音」を展示空間に立体的に設置する表現方法の探求など、多彩な創作活動を実施しました。本展では、彼の50年以上に渡る活動のなかで、関心の対象としてあった「音」と「時間」をテーマにした、未発表の新作や代表作など、没入型・体験型のサウンド・インスタレーション作品約10点が披露されます。
音楽と視覚、時間と空間が交錯するこの展覧会は、従来の枠を超えた芸術体験を提供しています。坂本龍一が追求した「音を視る」、「時を聴く」世界を、ぜひ体感してください。
4) SBIアートオークション「第69回SBIアートオークション|Modern and Contemporary Art」(2025年1月25日(土)-1月26日(日))
Courtesy of SBI Art Auction
SBIアートオークションは、2025年1月25日(土)及び26日(日)に、代官山ヒルサイドフォーラムにて「第69回SBIアートオークション|MODERN AND CONTEMPORARY ART」を開催。新しい年の幕開けにふさわしい、国内外で注目を集める巨匠から新進気鋭のアーティストまで、幅広いラインナップが揃ったオークションとなります。
抽象絵画の先駆者であり、幾何学的な構成と独特の色彩感覚が特徴的な山口長男の《小さい窓》は、筆致の力強さやモダンアートの潮流の一つとしての作家の表現性が見て取れ、今回のオークションカタログの表紙を飾りました。草間彌生の代名詞とも言える南瓜がモチーフのアクリル画やブロンズ・ラメのシルクスクリーンのほか、草間に並び海外からの人気も絶えない奈良美智の16点組のプリント作品など珍しい作品群が集結しました。
海外からは、ドイツの現代アートを代表するゲルハルト・リヒターの作品が登場し、具象と抽象を巧みに融合させた表現、光と色彩の深い研究が反映され、抽象画の中に詩的な美しさが宿ります。一方、抽象画が流行した1950年代のアメリカで、具象表現と大胆な色彩でその存在を世に示したアレックス・カッツ、ポップアートの代表的な画家の一人であるアンディ・ウォーホル、アジアからは韓国と日本の戦後美術を代表する作家の一人である李禹煥らの作品も登場します。また、巨匠だけでなく若手作家の作品も充実しており、少女のモチーフと鮮やかな色彩、筆ではなく画家自身の手を使い描かれる独特の表現が特徴的なロッカクアヤコや新進気鋭の作家として学生時代から注目を集める友沢こたおの作品も注目です。
新年の始まりに珠玉のアート作品と触れ合い、芸術が持つ力を実感するのはいかがでしょうか。オークションは土日開催となり、下見会期間も延長されます。普段ご参加が難しい方もこの機会にぜひオークションハウスならではのラインナップをご覧ください。
今回は、「伝統技術とアートの融合 -時代を超えて輝く表現の再解釈-」と「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」の2つのテーマに着目してセレクトした美術展やイベントを紹介いたします。古くから人々の暮らしや文化に根付いてきた伝統的な技術が現代のアートにどのような息吹を吹き込んでいるのか、また科学技術の進化による芸術表現への影響を感じ取ることができるでしょう。
国立西洋美術館で開催中の「モネ 睡蓮のとき」は、世界で愛される印象派を代表する画家クロード・モネが、独特のスタイルで織りなした光と自然の世界を体験できます。渋谷区立松濤美術館では、「須田悦弘」展が開催されており、普段の生活のなかで触れ合うような自然物をモチーフに細部まで彫り込まれた彫刻作品が見る者を驚かせます。都内では希少な自然環境にあり建物自体も国の重要文化財に指定されている東京都庭園美術館では、「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」展が開催。長い間人々の生活の一部となってきた鉄やガラスなどを使用して制作を行うアーティストたちに着目しています。
デジタルメディアから取得したデータをアプリで加工・構成した下図をもとに油彩で描くスタイルが特徴的な今津景。東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」展とUESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」を通じて、その表現に浸ることができるほか、東京都現代美術館では、世界的に有名な音楽家・アーティストであり、マルチメディアを駆使したライブインスタレーションなども制作した坂本龍一の大規模個展「坂本龍一|音を視る 時を聴く」が開催。現代アートの優品が揃う弊社オークションと併せて、是非巡っていただきたい展示が勢ぞろいです。
目次
1. 「伝統技術とアートの融合-時代を超えて輝く表現の再解釈-」
1) 国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」
2) 渋谷区立松濤美術館「須田悦弘」展
3) 東京都庭園美術館「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」
2. 「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」
1) 東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」
2) UESHIMA MUSEUM ANNEX 「今津景展」
3) 東京都現代美術館「坂本龍一|音を視る 時を聴く」
4) SBIアートオークション「第69回SBIアートオークション|Modern and Contemporary Art」
1. 「伝統技術とアートの融合-時代を超えて輝く表現の再解釈-」
古くから人々の暮らしや文化に根付いてきた伝統的な技術が、現代のアートにどのように息吹を吹き込んでいるかが伝わるような展覧会を紹介いたします。油絵や木彫り、建築、さらには鉄やガラスなどの素材を用いたクラシカルな技術は、単なる技法を超え、芸術家たちの個性や時代の感性と結びつくことで、新たな価値を生み出しています。
1) 国立西洋美術館「モネ 睡蓮のとき」(2024年10月5日(土)-2025年2月11日(火・祝))
2024年10月から国立西洋美術館では、「モネ 睡蓮のとき」が開催されています。日本でも人気が高い印象派を代表するクロード・モネの大規模個展である本展覧会は、世界最大級のモネ・コレクションを誇るパリのマルモッタン・モネ美術館所蔵の日本初公開作品を含む約50点と日本国内で所蔵されている名画を集結させた充実のラインナップです。ロンドンの街並みやセーヌ河の作品群の後、「睡蓮」を主題として水と花々を描き始め、多くの困難を経て、睡蓮の池を描いた巨大パネルで部屋を覆うという画家の計画であった「大装飾画(Grande Décoration)」の制作時代へと移り変わります。晩年には白内障の症状により色覚の変化が生じながらも、その制作衝動の強さや経験に裏打ちされた色彩感覚、実験精神を感じる作品群が展示されています。数々の困難を前に活動を止めることがなかったモネが油彩画を通して表現した世界は、彼の生きた時代にすでに確立された絵画技法への力強い挑戦でもありながらも、「色彩の交響曲」と言えるそのたゆたう睡蓮の池の水面や自然は、今日を生きる人々にとっても想いを馳せる拠り所となり続けています。
2) 渋谷区立松濤美術館「須田悦弘」展(2024年11月30日(土)-2025年2月2日(日))
左:須田悦弘 《スズメウリ》 2024年 木に彩色 作家蔵 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
中央:須田悦弘《東京インスタレイシヨン》(部分)1994年 ミクストメディア 山梨県立美術館寄託 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
右:須田悦弘《ガーベラ》1997年 木に彩色 東京都現代美術館蔵 賛美小舎 上田國昭氏・上田克子氏寄贈 撮影:田中俊司 ©Suda Yoshihiro / Courtesy of Gallery Koyanagi
2024年11月30日から渋谷区立松濤美術館で開催されている「須田悦弘」展は、日常の草花や雑草を驚くほど精巧に彫り上げた木彫作品を通じて、自然とアートが交錯する特別な体験を提供します。須田の作品は本物そっくりの植物を実物大で再現し、それを思いがけない場所にそっとすることで、空間と一体化した独自の世界を作り出します。今回の展覧会では、須田の初期作品やドローイング、さらには古美術品の欠損部分を補う「補作」作品までを展示。この機会にしか見られない卒業制作の再現展示も注目です。松濤美術館は、「哲学の建築家」と言われる白井晟一の設計によるユニークな建築で、曲線を多用した展示空間に配置された須田の作品は、訪れる人々に静謐で詩的な体験をもたらします。
静かに置かれた作品を探し出したとき、周囲の景色が変わって見える体験を味わうことができます。
3) 東京都庭園美術館「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」(2024年11月30日(土)-2025年2月16日(日)
左上部:東京都庭園美術館 本館 正面玄関
左下部:東京都庭園美術館 本館 大客室と香水塔
中央:青木野枝《微塵》2020年 gallery21yo-j (東京)展示風景 ©Noe Aoki, courtesy of ANOMALY(撮影:山本糾)
右:三嶋りつ惠《VENERE》2023年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION(撮影:Francesco Barasciutti)
東京都庭園美術館では、「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」が開催中です。降り注ぐ太陽の光、穏やかな月明かり。私たちの日常はさまざまな光との出会いに彩られています。この展覧会では、現代美術の第一線で活躍する青木野枝と三嶋りつ惠の作品が、鉄とガラスという古くから人間の世界に存在し続けている素材を使用し、アール・デコ様式の装飾空間を舞台に新たな輝きを放ちます。二人はこの場所を訪れ、空間と対話を重ね、この展覧会のためだけの展示プランを構成しました。青木は、鉄が溶断するときに見せる内部の「透明な光」からインスピレーションを受け、この重い素材が持つ光に向き合い続けてきました。一方、三嶋は透明なガラスを通して「光の輪郭」を表現しようと試みてきました。昼は自然光が差し込み、夕暮れには暖かな室内照明が灯り、光の移ろいが作り出す空間のなかで、それぞれの素材とそれぞれの「光」への意識や向き合い方が表現された作品が展示され、瞬間の美を魅せます。
歴史と現代、鉄とガラス、作家と空間が交差するこの展覧会は、光の芸術を通じて私たちの感覚を新たな世界へと誘います。
2. 「現代技術の賜物 -新時代が切り拓くアートの可能性-」
科学技術の進化は、芸術表現にも新たな地平をもたらしています。デジタルツール、AI、VR、3Dプリント、音響技術といった現代の技術は、これまで不可能だったアートの実現や、新しい視点・体験の創出を可能にしています。本特集では、現代技術がアートに与える影響とその未来像に迫り、「今だからこそ生まれるアートの表現性」を深く掘り下げます。伝統と現代の狭間で生まれる新たな創造を通じて、技術と芸術の交差点を探ります。
1) 東京オペラシティアートギャラリー「今津景 タナ・アイル」(2025年1月11日(土)-3月23日(日))
左上:「unearth」ROH (インドネシア) 展示風景 2023 courtesy of The Artist and ROH
左下:《When Facing the Mud(Response of Shrimp Farmers in Sidoarjo)》油彩、アクリル、泥、UVプリント、キャンバス 194×388 cm 2022 個人蔵 courtesy of The Artist and ROH
中央:《Decoupling》2016 油彩、キャンバス 116×80 cm 個人蔵 courtesy of The Artist and ANOMALY
右:《Last Universal Common Ancestor》2022 油彩、キャンバス 201×135.5 cm Obayashi Collection courtesy of The Artist and ANOMALY
2025年1月11日から東京オペラシティアートギャラリーで開催されている今津景「タナ・アイル」展。今津は、2017年よりインドネシアのバンドンに制作・生活の拠点を移し、インドネシアの都市開発や環境汚染などの事象を自分自身で調べ、時には自らそれらの地に足を運び、その経験をもとに制作を行うスタイルへと移行しています。今津は、デジタルアーカイブやインターネット上の画像を取り入れ、それらをコンピューターアプリケーションで独自に加工した上で、油彩でキャンバスに描く、伝統的な技法と現代的な技術を組み合わせた独自のスタイルで作品を制作しています。また、現在起きている出来事だけでなく、過去の神話や歴史、生物の進化などの画像データなどを組み合わせることで、複数の時間軸やテーマを重ね合わせた作品が生まれ、現代社会が抱える問題を普遍的な視点から問いかけています。本展では平面作品だけでなく、3Dプリンターを活用した巨大彫刻やインスタレーション、そしてインドネシアの歴史や自然環境をテーマにした新作も公開され、今津の多彩な創作世界を体感できます。
展覧会タイトル「タナ・アイル」はインドネシア語で「土」と「水」を意味し、「故郷」を象徴する言葉です。今津にとって、現在暮らしているインドネシアと自身のルーツがある日本の二つの故郷、そしてそこでの経験に基づいて制作された作品群は、鑑賞者にも自らの生きる場所について考えさせるきっかけを提供します。
現代社会の課題と個人の視点が交差する今津景の作品群。ぜひ会場でその壮大なビジョンを体験し、私たちの生きる世界を再発見してください。
2) UESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」(2025年1月15日(水)-2025年3月末日)
左:「今津景展」エキシビションポスター
左:UESHIMA MUSEUM ANNEX「今津景展」展示風景
昨年6月に渋谷教育学園内にオープンしたUESHIMA MUSEUM(本館)に続き、2025年1月にUESHIMA MUSEUM ANNEX がオープンしました。このAnnex館では2025年1月15日から「今津景展」が開催されています。国内でも有数の大規模なコレクションを有するUESHIMA MUSEUM COLLECTIONは、同時代性をテーマに集められた多様な作品を有しており、先に触れた東京都庭園美術館へも三嶋りつ惠の《VENERE》(2023年)を貸出しています。本展では同コレクションが所蔵する12点の今津作品が一堂に会し、特に2019年制作の大作《生き残る》が注目の的となっています。
今津景は、インターネット上で収集した多様なイメージをデジタル編集し、それを基に油彩で描く独自の手法で知られています。デジタル編集の過程で生じるバグやグリッチといった偶発的な要素も作品に取り入れ、伝統的な絵画技法では得られない視覚体験を提供します。このようにして生まれる作品は、絵画とデジタルの境界を超え、鑑賞者に新たな視点を提示します。
本展は、2000年代後半から現在までの約20年間にわたる今津のキャリアを概観する構成となっています。日本からインドネシア・バンドゥンへの拠点移動や、出産・育児といった個人的な経験が、作品のテーマやモチーフに大きな影響を与えているであろうことが、各時代の作品の変遷を通じて感じ取ることができます。
3) 東京都現代美術館「坂本龍一|音を視る 時を聴く」(2024年12月21日(土)-2025年3月30日(日))
左:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展 ポスタービジュアル
中央上:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024年 ©2024 KAB Inc. 撮影:浅野豪
中央下:田中泯 場踊りat 坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE−WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662 Photo: 平間至
右:「坂本龍一|音を視る 時を聴く」東京都現代美術館、2024年 坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024 ©2024 KAB Inc. 撮影:丸尾隆一
2024年12月21日(土)より東京都現代美術館で開催されている、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展は、日本が誇る音楽家であり、アーティストであった坂本龍一の芸術的探求を包括的に体感できる展覧会です。坂本の没後、日本では初めてとなる大規模な個展であり、音楽と美術を融合させた新たな体験が広がります。
坂本は、その多様な表現活動で知られており、マルチメディアを駆使したライブパフォーマンスや2000年以降に始まった「音」を展示空間に立体的に設置する表現方法の探求など、多彩な創作活動を実施しました。本展では、彼の50年以上に渡る活動のなかで、関心の対象としてあった「音」と「時間」をテーマにした、未発表の新作や代表作など、没入型・体験型のサウンド・インスタレーション作品約10点が披露されます。
音楽と視覚、時間と空間が交錯するこの展覧会は、従来の枠を超えた芸術体験を提供しています。坂本龍一が追求した「音を視る」、「時を聴く」世界を、ぜひ体感してください。
4) SBIアートオークション「第69回SBIアートオークション|Modern and Contemporary Art」(2025年1月25日(土)-1月26日(日))
Courtesy of SBI Art Auction
SBIアートオークションは、2025年1月25日(土)及び26日(日)に、代官山ヒルサイドフォーラムにて「第69回SBIアートオークション|MODERN AND CONTEMPORARY ART」を開催。新しい年の幕開けにふさわしい、国内外で注目を集める巨匠から新進気鋭のアーティストまで、幅広いラインナップが揃ったオークションとなります。
抽象絵画の先駆者であり、幾何学的な構成と独特の色彩感覚が特徴的な山口長男の《小さい窓》は、筆致の力強さやモダンアートの潮流の一つとしての作家の表現性が見て取れ、今回のオークションカタログの表紙を飾りました。草間彌生の代名詞とも言える南瓜がモチーフのアクリル画やブロンズ・ラメのシルクスクリーンのほか、草間に並び海外からの人気も絶えない奈良美智の16点組のプリント作品など珍しい作品群が集結しました。
海外からは、ドイツの現代アートを代表するゲルハルト・リヒターの作品が登場し、具象と抽象を巧みに融合させた表現、光と色彩の深い研究が反映され、抽象画の中に詩的な美しさが宿ります。一方、抽象画が流行した1950年代のアメリカで、具象表現と大胆な色彩でその存在を世に示したアレックス・カッツ、ポップアートの代表的な画家の一人であるアンディ・ウォーホル、アジアからは韓国と日本の戦後美術を代表する作家の一人である李禹煥らの作品も登場します。また、巨匠だけでなく若手作家の作品も充実しており、少女のモチーフと鮮やかな色彩、筆ではなく画家自身の手を使い描かれる独特の表現が特徴的なロッカクアヤコや新進気鋭の作家として学生時代から注目を集める友沢こたおの作品も注目です。
新年の始まりに珠玉のアート作品と触れ合い、芸術が持つ力を実感するのはいかがでしょうか。オークションは土日開催となり、下見会期間も延長されます。普段ご参加が難しい方もこの機会にぜひオークションハウスならではのラインナップをご覧ください。